■水煙秀句1998/高橋信之評■


◆12月号の一句◆

そこに光り集めて木犀落下する/古田けいじ

この句は、どこに出しても恥ずかしくない、水煙を代表する秀句で、 このような句を「水煙」に収載できることは、水煙の一人とし て、とても嬉しく思います。この句の良さは、見過ごしがちな 「落下する」ところに、「光り集めて」いることなのです。侘 び、寂び、といった日本の美は、もともと、こういったところ にあったと、思われます。


◆11月号の一句◆

夏終わろうとする夜の全円の月/相原弘子

この句の月は、九月六日のものと思います。この日の満月は、 午後八時二十一分でしたので、すっかり暗くなって、夕餉の後 片付けも終わり、一日の終わりのほっとした時刻の「夜の月」 なので、「全円」という言葉が見事に当てはまって、生きてい ます。科学的な満月と、生活のほっとした丸い心とが見事に合 致しました。「夏終わろうとする」ほっとした気持ちでもあり ます。この句は、とても深い俳句なので、時間をかけて読んで いますと、いろいろな発見があって、嬉しくなってきます。  弘子さんは、最近、パソコンを買って、インターネットをし ています。詩人が科学的なことに挑戦しているのです。詩人ゲ ーテが科学者でもあったことを思い出しました。


◆10月号の一句◆

レタス出荷トラック霧の坂下る/古田けいじ

特に際立って珍しい句ではないので、見落としてしまいそうで すが、水煙の今月の代表句です。読み手がしっかりしていれば、 その良さを読み取ることが出来ます。読み手次第で、佳句にも なれば、凡句にもなってしまいます。作者の心が内へ内へ向か っている様子を、また、作者の心が生きいきとしている様子を 読み取って下さい。


◆9月号の一句◆

田植機を光の中で洗い上ぐ/相原弘子

「田植」は生産の営みであって、そこには、明るい未来がある。


◆8月号の一句◆

かなぶんの瑠璃の背急に開き発つ/渡辺道朗

小さな存在に向けている作者の視線がよい。的確な写
生は、周りを拘束しない姿勢で、その心に惹かれる。


◆7月号の一句◆

シャボン玉追いかける子も七色に/鳩崎良一

文句なく明るい句。家庭でも、学校でも、子供たちが明るく振る
舞うことが出来ないならば、それは、大人たちの責任であろう。


◆6月号の一句◆

鳥帰る日輪の中に声のこり/藤田正明

世界の核心を見事に掴んでいる。この句の説明は不要であろう。


◆5月号の一句◆

芽ぐむもの全てに愛の光りけり/藤田洋子

喜びの俳句である。短い言葉ゆえに生命讃歌が力強く詠まれた。


◆4月号の一句◆

春立つ朝の軽い音で汽車が通る/久保田弘子

春を迎えるという快い弾みが言葉のリズムで表現さ
れている。口語俳句で成功した数少ない例である。



◆3月号の一句◆

パン皿を白く弾いて冬灯/相原弘子

身辺の日常を詠んで力強い。この強さを俳句の原点とみてよいであろう。



◆2月号の一句◆

大き葉ぼたん来しと花屋の声も大き/岩崎風女

このような句を読むと、世の中の嫌なことも忘れて元気が湧いてくる。



◆1月号の一句◆

大根の首の青さを積み上げる/中野哲子

この句は、店頭でよく見かける風景だが、珍しい
句だ。色や形のイメージがひどく鮮明なのである。




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