1999年水煙秀句高橋信之評


◆1月号◆

工場の鉄の戸開く秋の野へ/渡邉道朗

これは、現代語的表現の秀句ですが、文語口語といった範疇に入れて語らないのがよいかと思います。


◆2月号◆

猪猟夫背の色赤く山に入る/森 隆博 

「猪」は、秋の季語で、「猪狩」、「猟」は、冬の季語となっていますので、この句は、冬の句です。狩猟解禁日は、地方や動物の種類によって違いますが、殆どが十一月中ですので、隆博さんの「猪猟」の句は、解禁日となった頃のものでしょう。中七の「背の色赤く」がすべてを語ってくれます。十一月の枯山に分け入ってゆく猪猟家の姿が鮮明に浮かんできます。「背」に絞ったことで、狩の姿勢がうまく表現できました。「色赤く」で、その挑む姿勢をさらに際だたせています。隆博さんは、インターネットで俳句を始めたばかりですが、いい句を月々の水煙に載せています。インターネットでは、朝の七時半には、決まって俳句を書き込んでくれます。毎日のことですので、大変なエネルギーです。上達が早いのも頷けます。この例は、インターネットのよい効果だと言えます。


◆3月号◆

せせらぎの砂に日差してお元日/高橋正子

一日を、一年を、意識させてくれるのは、何と言っても、お日様ですね。一年の始まりは、「初日の出」。感動があります。手を合わせたくなります。


◆4月号◆

焼きたてのパンをかかえて寒夕焼/阪本登美子

パンは焼きたてに限ります。「寒夕焼」との取り合わせがうまく、「焼」を2度使ったのは、意図的ではありません。


◆5月号◆

机上には花鉢届く卒業期/大西和章

校長先生の机には花鉢が届きます。教え子たちの美しい心が届きます。明るくて美しい共同体です。


◆6月号◆

外つ国の子にもひとしく桜散る/安西さゆり

「外つ国」の人にも、日本の心、日本の俳句が「ひとしく」解かってもらえると知ったときの喜びは、大きかったに違いありません。これは、珍しい句です。


◆7月号◆

花びらのひらひら散るを見届ける/森 隆博

下五の「見届ける」で完成しました。作者のやさしさと強い意志が読み取れます。


◆8月号◆

 朱鷺誕生 万緑のニッポンへ出よニッポニアけいじ/古田けいじ

中国生まれの朱鷺が日本で子を産みました。誕生というものは、なんであれ、誰もに喜びを与えてくれます。万緑のニッポンが輝いています。けいじさんは、片仮名俳句を得意としていますが、この句でも成功しました。


◆9月号◆

空だけが動いている蒲の村/吉田 晃

余計な夾雑物がなく、作者の精神が集中しています。蒲(がま)の空、蛍、これらが季語となって、自然の本源に迫っています。人間の猥雑な情念が切り捨てられているところに良さがあります。



◆10月号◆

炎昼や明神下から野郎ども/伊嶋高男

大都市、東京の下町をうまく捉えることができました。潔い句です。



◆11月号◆

さわやかに畑の中から立ち上がり/相原弘子

無駄な言葉が一切なく、「さわやか」という季語が一句全体をうまくまとめ、さわやかな一句が生まれました。



◆12月号◆

前通る牛舎ほがらか空高し/森 隆博

「前通る」に、実感があって、「ほがらか」な気持ちが伝わってくる。季語の「空高し」で終えたのも句を力強くした。歳時記の季語では、「天高し」、「秋高し」となるが、「空高し」に季感がある。 




■水煙秀句: 1997年/ 1998年

インターネット俳句センター