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■第55回入賞発表(10月16日)/高橋正子選評 【金賞】 ★風うけて緋色をしかと赤とんぼ/石井信雄 風の中で宙に留まったり、また、飛んで行ったりする赤とんぼ。その胴体の、赤よりもっと濃い緋色が、しっかりと目に捉えられて揺るぎがない。「しかと」は、作者自身の実感の捉えるところ。山で過ごして降りてきた赤とんぼは緋色となる。 【銀賞】 ★大花野音なく風のひろがれる/大給圭泉 吹く風が音もなく、花野をさわさわと広がってゆく景色が、美しくやさしい。花野と風をすべて心に入れ、心をやわらかくした作者がある。 【銅賞】 <キリマンジャロ> ★呼び交わすガイドの声や月明かり/多田有花 煌々と輝く月光のなかを、道を迷わないようにだろうか、お互いの位置を確かめて大声で呼び交わすガイドの声が、しんとした山に響く。月光に浮かぶ現地のガイドと登山者たちの姿が、神秘的。 【特選5句】 ★掃き清めし庭のどこかに金木犀/岩本康子 訂正の句を示されていたが、元の句のほうがすっと入ってきてよい。掃き清められた庭と金木犀の香りとが、清浄な空気を作り出している。 ★暮れてなお籾がら赤く燃えつづく/祝恵子 ★朝の日を受けて解かれる霧の谷/日野正人 ★藤豆の棚へ逸れたるドッチボール/澤井渥 ★秋耕や石灰肥料白く撒き/堀佐夜子 【入選30句】 ★柿干して縄の縒り目に日は残る/小峠静水 ★団栗や良寛の里日暮れつつ/加納淑子 ★藁投げて藁塚高く高く積む/おおにしひろし ★八千草を岸に用水滔々と/岩崎楽典 ★二階より返事の返る柿紅葉/戸原琴 ★鈴鹿超え目に優しきは花薄/古田けいじ ★潮じめりもて帰りたる月の道/平野あや子 ★人形展少女秋思の頬杖に/山野きみ子 ★露けしや強き木の香の皮を剥ぐ/宮地ゆうこ ★秋の蜂角度小さく飛び行けり/吉田晃 ★爽やかや熊笹の音に耳澄ます/冬山蕗風 ★聖堂の青き伽藍や秋の雨/右田俊郎 ★旅客機の澄みし空より子らの来る/磯部勇吉 ★手を入れて藁に温み柿熟るる/相沢野風村 ★ピカソ展深呼吸に入る風は秋/河ひろこ ★夕月夜影の淡きを踏みて行く/池田多津子 ★葦の穂の立ち上がりたる野分あと/脇美代子 ★空青く竜胆青く交響す/安丸てつじ <東京・上野公園散策> ★公園の銀杏売りは文庫読み/守屋光雅 ★アンテナに止まりし百舌鳥の猛々し/能作靖雄 ▼選者詠/高橋正子 製材所に木の香紛々秋日差し 金木犀のおくれて香る庭のあり 月光にさざめくポプラの窓にあり ■第54回入賞発表(10月15日)/高橋正子選評 【金賞】 ★空のある限りに広がる秋星座/古田けいじ 澄み渡った秋の夜空は、いつ見ても感動させられるものの一つである。見える限りの空に星座が瞬いて、寒さが来る前の秋の深さがある。 【銀賞】 ★陽の色を透かして薄の揺れ自在/日野正人 薄の穂が陽を含みきらきらとして揺れる。薄の美しさと自在さを、純朴に捉えている。 【銅賞】 ★藁塚の周りに明るき藁敷けり/脇美代子 藁塚の周りにも藁は敷くのです。その藁が新しく明るい、豊作で日に焼けた顔の農夫の顔も見ます。 【特選5句】 ★草々の色無き風に光りたり/岩本康子 「色無き風」は、講談社の歳時記には季語として採録され、角川書店の歳時記には採録されていない現状だが、「草々」に細やかにある光りに季感がある。 ★牛舎の藁ふんわり香り新しき/池田多津子 「ふんわり香り新しき」に牛舎の牛の喜んだ顔が、見えるようだ。農家の秋のほのぼのとした暖かさがいい。 ★行く列車来る列車も秋麗ら/高橋秀之 ★大花野順に鳴りくる警報機/澤井渥 ★秋苗に肥料の赤き粒をまく/祝恵子 【入選15句】 ★一糸の根も余さず引けりほうれん草/碇英一(信之添削) ★ふる里の月の夜に寝て身を軽く/柳原美知子 ★仰向けば月膨らみつ高みへと/山野きみ子 ★秋海棠石階段の湿りかな/戸原琴 ★勝手口に表札のありピラカンサ/堀佐夜子 ★キャンバスに雑木紅葉の色を置き/青海俊伯 ★霧流る音をかすかに宿襖/おおにしひりし ★青空の広がりはるか登山道/多田有花 ★ロープウエイより見渡すや初紅葉/冬山蕗風 ★改札の駅のドームは美術展/岩崎楽典 ★傾ぐ日の部屋の奥へと秋の午後/磯部勇吉 ★鰯焼く路地に夕日の長き影/右田俊郎 ★花薄こまめに風を押し流す/小峠静水 ★自転車の吾ぬき会釈爽やかに/大給圭泉 ★走り去る列車の響きに芒揺れ/池田多津子 ▼選者詠/高橋正子 碇英一さん、句集『冬満月』を上梓 秋の灯の句集の月を輝かす 穂芒の金茶重ねて野に生うる 鵯の声まっすぐ飛んで朝晴れる ■第53回入賞発表(10月14日)/高橋正子選評 【金賞】 ★爽やかや空にひとつの陽のありて/相沢野風村 爽やかな空に、一つあるのもが太陽であり、かなたの光源である。太陽と空と自分と以外に余計なものがなく、その心境が爽やかそのもの。 【銀賞】 ★秋篠やどこかで木の実落ちる音/野田ゆたか 奈良、秋篠の道をたどり、古寺を訪ね遊ぶ麗らかな一日に、木の実の落ちる音を幾度か聞く。どこかで、いつも木の実が落ちているのが、秋篠。 【銅賞】 ★竿高く背伸びして干す鵙の晴/宮地ゆうこ 【特選5句】 ★秋晴れや漁船に小さき椅子二つ/柳原美知子 朝の漁を終えた昼間の漁船がのどかで麗らか。その船にある二つ椅子が漁の暇ののんびりとした二人の会話を想像させてくれる。 ★乳母車秋風軽し嬰眠る/祝恵子 乳母車の児が、すやすやと気持ちよさそうに眠る姿に、だれもが安らぎと安心を覚える。麗らかなお天気に、吹く風が「秋風軽し」と、捉えられる。 ★秋澄みて写経の墨の仄かな香/碇英一 ★落葉の色様々を地に重ね/戸原琴 ★ひかり立つ芒を背負いて黒き墓/藤田荘二 【入選23句】 ★秋麗鉛筆削る肥後の守/都久俊 ★小さき坂枯れ葉きそひてころげおり/福島節子 ★秋暁の家並影絵より明ける/山野きみ子 ★藁塚の影緩やかに伸び行けり/青海俊伯 ★屋敷畑紅葉深めしほうき草/澤井渥 ★鶏頭の赤腰下ろす脇に立つ/日野正人 ★草紅葉踏みて史跡を訪ねたり/岩本康子 ★秋天に旅立つ船の遠汽笛/右田俊郎 ★指角力負けて悔しく萱を折る/小峠静水 ★煮るほどに透きとおりけり冬瓜汁/平野あや子 ★稲屑火の煙の匂う夕間暮/磯部勇吉 ★強き香に誘われ見上げる木犀樹/池田多津子 ★門口に柚子の香のする路地暮し/池田和枝 ★秋入日つかず離れず影二人/石井信雄 ★水脈光り遊覧船や秋うらら/堀佐夜子 ★もちの木の萬の実一つ一つ赤/おおにしひろし ★秋澄みて竹刀の響く体育館/大給圭泉 ★鈴鹿越え薄の向こうへ陽が沈む/古田けいじ ★秋夕日背中押されて児ら帰る/碇英一 <キリマンジャロ> ★朝もやの晴れて頂上真正面/多田有花 <ノーベル賞> ★古酒新酒極めし味の樽二つ/安丸てつじ ★公園は秋のイベント子等の声/岩崎楽典 ★白ケープ秋陽に眩し宮参り/脇美代子 ▼選者詠/高橋正子 秋の朝新聞畳に平らかに 冷ややかに朝の音楽身に通す みぞはぎに日影ちらちら生まれける ■第52回入賞発表(10月11日〜13日)/高橋正子選評 【金賞】 ★コスモスの花を空へと風が誘う/戸原琴(信之添削) コスモスの上向きの花が空に中にそよぐ様子を、このように言った。どの花も空へ空へと風に掬われるように咲いている。 【銀賞】 ★万年青の実紅の俯く石明かり/小峠静水 「石明かり」する晩秋の庭の一景が大変美しい。石明かりは、作者の澄んだ心境によって初めて捉えられる。 【銅賞】 ★穂にひかり貯めて傾く花すすき/藤田荘二 【特選5句】 ★旅立ちの空港霧に包まれる/大給圭泉(信之添削) 旅立ちの空港が霧に包まれて、霧深い外国の空港にでもいるような感じである。秋の旅立ちを、しなやかな感性で詠んだ。 ★女たち頭上にバナナの房を載せ/多田有花 この句の「バナナ」は、夏の季語で、アフリカでの句。暦の上では、今は秋だが、アフリカで作者が感じ取った季節感は、夏である。肌の黒いしなやかな肢体の女性が、黄色バナナを頭にのせて、明るいアフリカの夏がある。季節や自然にどれだけ深く自分の身を関わらせ、置いていくかが海外詠では大切である。季感を無視してはいけない。 ★湖の色濃く淡くして鳥渡る/堀佐夜子 ★手にむすぶ水の冷やこさ小鳥来る/野田ゆたか ★ばりばりと蘆原倒し刈り車/岩崎楽典 【入選26句】 ★鶺鴒の来て色着ける亀の池/碇英一 ★墓地登り来て秋晴れる沖を見る/藤田洋子 ★幼子のコスモス揺らす鬼ごっこ/宮地ゆうこ ★道に落ち弾みしどんぐりまだ青く/池田多津子 ★秋晴れの光の作る船の影/高橋秀之(正子添削) ★コスモスの風いくすじも身のほとり/戸原琴 ★両の手ですくえるだけの栗もらう/野田ゆたか ★糸電話秋気にぴんと伝い来る/池田多津子 ★大川を越えて秋灯の終着駅/山野きみ子 ★コスモスのすくすく育ちし休耕田/岩本康子 ★廃品の音を並べて鳥威し/吉田晃 ★花野行く人言葉なく微笑みし/おおにしひろし ★自転車の車輪くるくる秋日連れ/柳原美知子 ★コスモスの激しき香り抱え帰る/柳原美知子 ★吹きこぼるほどに香の増す今年米/池田和枝 ★たわわなる斑鳩の里の熟柿かな/冬山蕗風 ★露草の高さに顔を近づける/祝恵子 ★山風に留まる向き変え赤とんぼ/古田けいじ ★染まりつつ芙蓉叢ごと風になる/都久俊 ★秋汐と秋空と分かつ島ひとつ/おおにしひろし ★お茶咲けり字に二つの寺のあり/澤井渥 ★六七羽西方に渡り秋気澄む/鬼頭雅子 ★ひっそりと狭庭にもあり赤まんま/冬山蕗風 ★秋風や闇を深めて玄関灯/加納淑子 ★秋夕焼け池より帰り来竿一つ/祝恵子 ★初陣の白鳥四五羽距離を置く/磯部勇吉 ▼選者詠/高橋正子 秋空に遠くを限り雲湧けり コスモスに撒き水ホースより飛ばし みぞはぎの咲き広がれば日を含む ■第51回入賞発表(10月10日)/高橋正子選評 【金賞】 ★赤蜻蛉陽の眩しさに見失い/高橋秀之 秋の日差しの中を飛ぶ赤蜻蛉は、きらきらと光る陽にまぎれてしまい、見失うことがある。赤蜻蛉によって、秋の日差しがとてもきれいに詠まれ、懐かしい世界を、自身の心に作っている。(高橋正子) 【銀賞】 ★病室の四角き空に鳥渡る/福島節子 まずは、お見舞いを。病室の限られた窓の四角の中を、鳥が渡っている。渡りの鳥に気持ちが託されて、心は広く遠く、しなやかに羽ばたいている。 【銅賞】 ★今日よりは白鳥の湖立ち入らず/磯部勇吉 【特選5句】 ★稲架にある束は大事に網を掛け/祝恵子 稲架に雀除けに架けられた網に、繊細な表情がある。大事にされていることがよくわかるが、大事にされ方がさわやかで優しい。 ★赤い羽根募金の声は透き通る/守屋光雅 赤い羽根募金を募る声は、若い人たちの声であろう。透き通って、明るく誠実さが伝わる。秋深むころのあたたかい光景である。 ★露けさの石になりたる無縁墓/おおにしひろし ★アンテナに百舌鳥の高鳴き朝の町/岩崎楽典 ★家毎に朝顔の藍故郷は/脇美代子 【入選21句】 <アンボセリ国立公園> ★干上がりし湖遠き蜃気楼/多田有花 ★青空に向かって牛蒡引抜きし/おおにしひろし ★寄り添うも秋七草の寂しけり/都久俊 ★吊橋の一歩に勇気や秋高し/河ひろこ ★ラムプ持ち霧蠢かす大胆に/小峠静水 ★寒村の暮らしを支え走り蕎麦/小原亜子 ★コンサート果てしばらくは秋の風/加納淑子 ★旧道は今も変わらず柿たわわ/堀佐夜子 ★潜り漁夫陸に上がりて酒ぬくむ/平野あや子 ★朝霧のかたまり谷を押し進む/池田多津子 ★秋灯にてんぷらの音響きけり/碇英一 ★友つくりたる南瓜の蔓太き/戸原琴 ★秋日入る窓に手を置き暖かし/吉田晃(正子添削) ★木犀の香りの絨緞踏みしめる/日野正人 ★土つきの茗荷を渡す垣根越し/古田けいじ ★秋の雲ビル窓写し流れおり/相沢野風村 ★三日月の低く大きく秋の浜/岩本康子 ★コスモスを揺らせし風に吹かれをり/澤井渥 ★大峠越えて眼下の野菊晴/池田和枝 ★佐渡近く秋夕焼けの日本海/大給圭泉 ★木犀の花へと長き竿渡す/宮地ゆうこ ▼選者詠/高橋正子 手の影も動きてもの書く秋灯下 口どけのふわふわ秋夜のチョコレート 一盛りの蜜柑を今日よりテーブルに |